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仙台高等裁判所 昭和24年(ネ)157号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人は本訴請求の原因として原告は約十年前別紙目録記載の土地の内(一)を訴外森孫蔵に、同(二)を訴外添田兼吉に何れも原告が自作するときは何時でも返還を受くべき約旨で賃貸小作させた。被控訴人は九戸郡切つての篤農家で農事については他を指導し、衆に範を示し、郡内の農事改良の功労者と認められているに反し、右森は老令の上同家には他に稼働人員なく施肥も不十分で耕作成績極めて不良であり、又右添田は荷馬車業を本業とし耕作成績も森同様不良であつて、前示土地は一等地であるに拘らず、右両名は最下等地以下の収穫しか挙げ得ない状況であつた。そこで被控訴人は昭和二十年十一月二十一日右両名との間に前示賃貸借を解約して即時に返還を受けることの合意が成立した結果即日右土地の返還を受け、翌二十三日には水害を受けた右土地の手入れをする等耕作の準備をし、昭和二十一年二十二年の両年度は平穏に被控訴人が耕作したのである。

しかるに右両名は昭和二十三年三月中訴外大川目村農地委員会に対し右土地につき指定期日である昭和二十年十一月二十三日現在において同人等の小作地であつたとして、農地調整法(以下農調法と略称する)附則第三条第一項により被控訴人と賃貸借契約締結(以下賃借権回復と称する)の協議をすることの承認を申請した。これに対し同委員会は同月三十日右賃貸借契約は指定期日以前に合意解約し任意に右土地を被控訴人に返還したもので右両名は指定期日における小作人でないとの理由で夫々右賃借権回復の協議は承認しない旨の決定をした。これに対し右両名は更に控訴人に対し夫々訴願し控訴人は右森の分を昭和二十三年岩農(小)第一〇〇号、右添田の分を同年岩農(小)第一〇一号各訴願事件として審議の結果、いづれも同年四月二十二日「被控訴人は右両名から無理矢理に右土地を取上げ耕作を初めたものであつて、仮りに昭和二十年十一月二十一日に右土地の返還があつたとしても、それは民法の規定により解約後一年を経過しなければ効力がないという理由で「夫々右両名の右従前の賃借権を設定する」旨の裁決をし、該裁決は同年五月十九日大川目村農地委員会を通じ被控訴人に通告され、同時に同委員会を通し被控訴人に対し右土地は爾後右森及び添田に耕作させなければならない旨の通告をした。

しかし右裁決は次の二点において違法である。即ち

一、農調法附則第三条による賃借権回復協議の承認請求に関する市町村農地委員会の措置に対し都道府県農地委員会に訴願をなし得るのは、賃借権回復協議の承認申請をした賃借人が市町村農地委員会より、その「承認」を受けて賃貸人と協議したが協議が調わなかつた場合、又は協議することができなかつた場合に、該賃借人が当該農地の賃貸借に関し当該市町村農地委員会に裁定を申請したのに対し、当該市町村農地委員会がした「裁定」の場合であつて、賃借権回復協議の承認の申請に対する市町村農地委員会の「不承認」の決定に対しては賃借人より都道府県農地委員会に対し単に「当該市町村農地委員会に対し承認すべき旨を指示すべきこと」を請求し得るに過ぎないのである。このことは右「承認」竝に「裁定」の性質及び農調法附則第三条第一項、第三項、第五項、第四条の明文上疑を容れないところである。従つて前示森及び添田の大川目村農地委員会に対する前示賃借権回復協議の承認申請に対し、同委員会のした「不承認」の決定に対しては訴願を為し得ないし、控訴人も亦これが裁決を為し得ないのであるから控訴人のした前示裁決は違法である。

二、仮りに賃借権回復協議の承認申請に対する市町村農地委員会の「不承認」決定に対し賃借人より訴願すること竝にこれを都道府県農地委員会において受理し裁決をすることができるとしても、右土地に対する右森及び添田の賃借権は前示の如く指定期日前に合意解約により終了し指定期日現在においては右両名は右土地の小作人でないから同人等に賃借権回復の請求権なく、従つて控訴人の前示裁決は違法である。

以上の理由により控訴人の前示裁決は取消さるべきものであると述べ、控訴人の主張に対し、被控訴人は大川目村農地委員会のした前示「不承認」の決定に参加したことはない。又右森及添田の前示訴願が大川目村農地委員会に対し賃借権回復協議を承認すべきことを指示すべき旨の請求した趣旨であり、控訴人の前示裁決が右を指示した趣旨であることは争うと答え、

控訴代理人は答弁として、被控訴人主張事実の中、被控訴人が別紙目録記載の中(一)を訴外森孫蔵に、同(二)を訴外添田兼吉に夫々賃貸小作させていたこと(但し何時でも返還を受けることができる旨の特約の点は争う)、昭和二十一年及び二十二年の両年度は被控訴人が事実上右土地を耕作したこと、竝に昭和二十三年三月右訴外人両名より大川目村農地委員会に対し右土地につき賃借権回復協議の承認申請をし、これに対し同委員会が控訴人主張の如き理由で「不承認」の決定をしたので右訴外人両名が訴願の形式で不服の申立をし、これに対し控訴人が裁決の形式を以て控訴人主張の如き理由で右両名の為め夫々従前の賃借権を設定する旨の決定をしたこと及び右決定が被控訴人主張の日時にその主張のような方法で被控訴人に通知したこと以上の事実はいづれも認めるが、被控訴人が篤農家で農事改良の功労者と認められていること及び訴外森孫蔵、添田兼吉が共に農事に熱心でないとの点はいづれも知らない、右土地に対する前示賃貸借が合意解約されたとの点は否認する。被控訴人は右土地を小作人である右訴外人両名より強制的に取上げて耕作するに至つたもので、しかも右取上は昭和二十一年のことであるから、指定期日当時は右両名は右土地の小作人であつた。そこで右両名は昭和二十三年三月二十九日前示の如く大川目村農地委員会に対し、右土地につき賃借権回復協議の承認申請をしたところ、同委員会は同月三十日「不承認」の決定をしたので、翌三十一日右両名は控訴人に対し前示の如く訴願の形式で不服申立をし、控訴人は前示の如く裁決の形式で決定をしたのであつて、右訴願は控訴人に対し「大川目村農地委員会に対し右賃借権回復協議を求めることを承認すべきことを指示すべき」旨を申請するの趣旨であり、控訴人の右裁決は「右村農地委員会に対し右を承認すべきことを指示した」趣旨である。従つて控訴人の右裁決は被控訴人の権利を毀損するものではないからこれが取消を求めるのは違法である旨述べた。(証拠省略)

三、理  由

被控訴人が本件土地の内(一)を訴外森孫蔵に、同(二)を訴外添田兼吉に夫々賃貸小作させていたこと、被控訴人が右土地を夫々取上げて昭和二十一年、二十二年の両年度耕作したこと、昭和二十三年三月に至り右訴外人両名が農調法附則第三条第一項により夫々大川目村農地委員会に対し被控訴人と本件土地につき賃借権回復の協議をすることの承認を申請し同委員会がこれに対し「不承認」の決定をしたこと、右に対し右訴外人両名より訴願の形式を以て不服申立をし控訴人はこれに対し右森の分を昭和二十三年岩農(小)第一〇〇号右添田の分を同年岩農(小)第一〇一号各訴願事件として審議の結果いづれも同年四月二十二日右両名の為め本件土地につき従前の賃借権を設定する旨の裁決をし該裁決は同年五月十九日右村農地委員会を通じ被控訴人に通告されたことは当事者間に争がないところである。被控訴人は右村農地委員会の為した「不承認」の決定に対しては控訴人に対し「賃借権回復協議を承認すべきことを右村農地委員会に指示すべきこと」を請求し得るに過ぎないので訴願は為し得ないし、控訴人亦該訴願を受理し審議裁決することができないのであるから、これを受理して為した本件裁決は違法である旨主張し、控訴人は前示訴外人の訴願の趣旨は「右村農地委員会に対し賃借権回復協議を承認すべきことを指示すべきこと」の申請であり、控訴人の本件裁決は「該申請どおり指示した」趣旨である。従つて控訴人の本件裁決により被控訴人の権利を毀損するものではないから、これが取消を求める本訴は違法であると主張し、互に争うのでこの点につき判断する。

成立に争ない甲第一号証及び原審証人宮沢一郎、森孫蔵、添田兼吉の各証言、当審における被控訴本人訊問の結果を綜合すると控訴人は本件裁決をした後右村農地委員会をして昭和二十三年五月十九日附書面を以てその頃被控訴人に対し、前示訴外人森及び添田の訴願に対し控訴人において「訴願を正当と認める」と裁決したから今後は本件土地を旧小作人である右訴外人両名に耕作させなければならない旨を本件裁決の結果と共に被控訴人に通知し、右に基き右訴外人両名は本件土地につき同年度から耕作を始めたこと、右訴外人両名が耕作するにつき被控訴人との間に何等賃借権回復につき協議をした事実がないこと、

以上の事実が認められる。又成立に争ない甲第二、三号証及び前示森孫蔵、添田兼吉両証人の証言、原審並に当審証人田村彰平の証言により成立を認め得る乙第一、二号証によれば右訴外人両名の本件訴願者には農調法附則第三条により訴願する旨記載されてあるに反し、前示大川目村農地委員会に対し賃借権回復協議を承認すべき旨を指示すべきことを請求した形跡全くなく、又本件裁決書には「本件土地につき賃借権を回復してもらいたい」との訴願要旨に対し、「該訴願を正当と認める」旨裁決しているのであつて、大川目村農地委員会に対し賃借権回復協議を承認すべきことを指示した形跡は全然存しないこと明かである。

以上認定の諸事実と前示各証人の証言及び被控訴人本人訊問の結果を綜合すると右訴外人両名の控訴人に対し為した本件申請は右村農地委員会の為した前示「不承認」の決定に対し訴願をしたものであり、控訴人の為した本件裁決は控訴人がこれを受理して審議の結果、直接右訴外人両名の為め本件土地に賃借権を設定することを内容とした裁決をしたものであり、従つて反面被控訴人の耕作権を毀損したものであつて、単に行政庁の内部関係にとどまるところの右村農地委員会に対する賃借権回復協議を承認すべき旨の指示をしたものでないと云わなければならない。以上認定を左右するに足る証拠はない。されば控訴人の前示主張は採用し得ない。ところで、行政行為に対し訴願を為し得るのは法が明定した場合に限るのであり又行政庁の権限も法の附与せる範囲に限るのであるが、農調法附則第三条第三項第五項第四条によれば賃借権回復協議の承認を得てその協議をしたが協議が調わなかつた場合又は協議をすることができなかつた場合には、当該農地の賃借権に関し当該市町村農地委員会の裁定を受け、該裁定に対し不服ある場合に訴願を為し得るに反し、市町村農地委員会が賃借権回復協議の承認をしない場合は都道府県農地委員会に対し「当該市町村農地委員会に対し右承認をすべき旨指示すべきこと」を請求し得るに過ぎないのであつて、右指示請求に代り訴願をすることはできないのであるし、都道府県農地委員会は右訴願を受理しその実体につき審議裁決することはできないのである。また右の「指示請求」に対しては都道府県農地委員会は右の如き指示の範囲を超脱し、他の行政行為に出ることは許されないのである。してみると前示訴外人森及び添田両名の控訴人に対し為した本件申請は訴願としては前認定の如く受理すべきものでないからこれを受理してその実体的裁決をした控訴人の本件裁決は違法である。又仮りに右訴外人両名の為した本件申請が「前示大川目村農地委員会に対し賃借権回復協議を承認すべき旨を指示すべきこと」の請求であるとしても、控訴人の為した本件裁決は前認定の如く村農地委員会に対する指示ではなく「直接右訴外人両名の為め本件土地に賃借権を設定することを内容とした」ものであるから権限超脱の違法な行為であつて、いづれにしてもこの点において既に本件裁決は取消を免れないのである。

尚仮りに前記不承認の決定に対して訴願が許されるものとしても本件土地の賃貸借解約に関する合意の有無並土地取上の時期に関する当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は下記のとおりであるから違法であり取消を免れない。即ち被控訴人が右訴外人森及び添田両名との間に昭和二十年十一月二十一日本件土地の賃貸借を解約し即日返還を受けることの合意成立して即日これが返還を受けたものと認め得るのであつて、この点に関する理由は当審証人田村彰平、小坂千松の各証言中右認定の趣旨に反する部分は当審における証人下畑千太の証言及び被控訴人本人訊問の結果に徴し採用できないと附加する外原判決理由と同一であるからここにこれを引用する。

以上の如く本件裁決は違法であり取消を免れないのであるから、これと結論を同じくした原判決は結局正当であつて本件控訴は理由ないものとして棄却すべきものである。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 小島彌作)

(目録省略)

原審判決の主文および事実

一、主  文

訴願人森孫蔵相手方原告間の昭和二十三年岩農委(小)第一〇〇号訴願事件に付為した原告所有九戸郡大川目村大字上大川目第十七地割六十九番田一反九畝歩中九畝歩に付右訴願人に賃借権設定の裁決、訴願人添田兼吉相手方原告間の昭和二十三年岩農委(小)第一〇一号訴願事件に付為した右土地中一反歩に付訴願人に賃借権設定の裁決は何れも之を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求原因として原告は約十年前訴外森孫蔵及訴外添田兼吉に対し夫々請求趣旨記載の土地を原告が自作するときは何時でも返還すべき約旨で小作させた。原告は九戸郡内切つての篤農家で農事については他を指導し、衆に範を示し郡内の農事改良の功労者と認められて居る。

然るに前示森孫蔵方は同人が老令で労働力も同人一人で施肥も不充分で耕作成績極めて不良で、又添田兼吉は荷馬車業を本業とし之亦耕作成績極めて不良であり、本件土地は一等地であるが小作当時右両名は最下等地以下の収穫しか挙げ得ない状況であつた。原告は昭和二十年十一月二十一日右両名と合意の上本件土地の返還を受け、翌二十二日には水害被害地であつた本件土地の手入をする等耕作準備をなし、昭和二十一年二十二年度は平隠に原告が耕作したのである。然るに昭和二十三年四月二十二日右小作人両名の訴願に基き原告は右小作人から無理矢理に本件耕作地を取上げ耕作を初めたものであり、仮りに昭和二十年十一月二十一日に小作地の返還があつたとしてもそれは民法の規定により解約後一年を経過しなければ効力がないという趣旨の裁決を被告は為した。

併し本件田は原告が合意の上正当に返還を受けたもので又合意により賃貸借が解約される場合にはその解約は直ちに効力を発生するものであるから被告の右裁決は理由なく取消さるべきものであると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告請求棄却の判決を求め答弁として原告が其の主張の訴外両名に本件土地を小作させたこと(但し何時たりとも返還する旨の約旨であつたことは争う)及原告主張の裁決を為したことは認めるが原告は本件土地を小作人の意に反し強制的に取上げ耕作するに至つたもので、又その取上は昭和二十一年中で昭和二十年十一月二十三日当時の小作人は訴外森孫蔵及添田兼吉である。其の他原告主張事実は争うと述べた。(立証省略)

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